手指にしびれを来す 整形外科疾患

 手指のしびれが主訴であれば、頚部の神経根症、脊髄症あるいは非変性性疾患、そして絞扼性末消神経障害といったものが鑑別に挙がる。講演では、診断に役立つ、しかし従来の教科書にあまり記述されていない、それぞれの疾患に特徴的な症候を解説する。本要旨では鑑別診断のポイントを述べる。

1.年齢(1):頸椎の加齢変性は一般に20歳代に始まり、腰椎に比べておよそ10年遅い。従って、頸椎の変性疾患は10歳代で皆無と言って良く、20歳代も稀である。下肢痛の高校生で腰部椎間板ヘルニアを疑うことは当然であるが、手のしびれの高校生で頚部のヘルニアを疑う必要が無い。20歳代までは脊髄腫瘍あるいは先天性の疾患を疑うべきである。年齢(2):頚部脊髄症の発生頻度を年代別に対人口比でみると70歳代で最も高い。手指にしびれがある患者が高齢であればあるほど、脊髄症を疑う必要がある。

2.初発症状:頚部痛がしびれに先行せず、しびれ単独での発症であれば神経根症を除外して良く、脊髄症あるいは絞扼性神経障害を疑う。ここで頚部痛とは項部、肩甲上部、肩甲骨上角部、肩甲間部そして肩甲骨部のいずれかの痛みをいう。従って、頚部痛での発症を質す問診に注意を要する。「先ず、くびが痛みましたか」の質問は不十分である。肩甲間部痛が初発であれば、「くびは何ともなかった」の返答で終わり、頚部痛での発症が捉えられなくなる。「くびあるいは肩甲骨のあたりが痛みましたか」と尋ねて、実際に肩甲上部、肩甲間部といった場所に触れて確認する配慮が必要である。

3.しびれの部位:しびれが環指にあれば、その局在が診断に役立つ。神経根症、脊髄症でしびれが橈側あるいは尺側の半分のみに限定されることがない。限定していれば、手根管あるいは肘部管の症候群と診断できる。しびれの部位が移動する、あるいは日によって異なるものであれば、頸椎疾患をほぼ除外して良い。

4.しびれの持続性:しびれの強さのいわば日内変動が参考となる。神経根症では朝方に改善していて、午後~夕方に強いことが多い。脊髄症では、しびれが常時であり、強さもほとんど変動しない。逆にしびれが持続性でなければ、脊髄症をほぼ除外して良い。朝方に強く、起床後に徐々に弱まれば手根管症候群の疑いが濃厚となる。

5.誘発動作:しびれが特定の姿勢、あるいは肢位で誘発されるか、もしくは増強されるかが大切である。うがい、缶ジュース飲み、目薬さし、美容院での洗髪、歯科治療、といった頸椎の後屈で再現、増強されるものであれば、頸椎由来と診断して良い。神経根症では一般に会話中に頸椎の動きが少ない。逆に、頚をよく動かして症状を説明する患者であれば、神経根症の可能性が少ない。

6.症状の推移:脊髄症で両手にしびれがあれば、しびれの先発側で、後発側に比べて、しびれならびに巧緻運動障害といった症状の程度が強い。脊髄症は一般に灰白質の障害に始まり、その病変が周囲へと拡大する。片側の灰白質障害に由来する片側のしびれで初発した例で、病変の拡大によって生じた反対側のしびれが、先発側のしびれの程度を上回ることは理論的にあり得ない。筆者はこれまでに両側のC8神経根症の2例を経験した。いずれも、両手のしびれと運動障害を主訴とした例で、脊髄症(central cord型あるいは腹部の1型)との鑑別を要した。診断の決め手は、先発側でのしびれならびに巧緻運動障害の程度が、後発側に比べて弱いことにあった。

(文献)田中靖久:中下位頚椎の症候.神経根症、脊髄症の臨床的特徴と高位診断の
指環.脊椎脊髄18:408-415,2005

東北大学医学部整形外科 助教授 田中 靖久

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