細菌性髄膜炎について

 細菌性髄膜炎はneurological emergencyと呼ばれるように、時間単位の緊急性が求められる疾患である。日本では年間約1500人の患者が発症すると考えられている。新たな抗生剤の開発や、治療法・検査法が進歩しているにもかかわらず、死亡率は依然として10~30%と高く、重篤な後遺症が残ることも多い。我々の施設は脳卒中を中心とした脳神経の専門病院で、髄膜炎疑いの患者が最初から受診することは稀で、ほとんどは他院からの紹介である。血液培養も行われないまま不十分な量の抗生剤が投与された場合など不適切な治療が行われた場合には、起炎菌が確定できなくなり、予後不良となることも多い。
発熱・頭痛といった症状で発症する細菌性髄膜炎の初期対応の大半は、神経関係の専門医ではなく、一般臨床医が行っているため、その役割は非常に重要である。

細菌性髄膜炎の最近の話題として、第1に、髄膜炎の起炎菌の耐性化があげられる。成人の細菌性髄膜炎の起炎菌として最も頻度の多い肺炎球菌の場合、約半数の患者から耐性菌が検出され、治療上の大きな問題となっている。16歳から50歳未満の菌未定時の初期治療として、従来はアンピシリン+第3世代セフェムが標準治療となっていたが、それでは対応できなくなってきている。
米国では、バンコマイシンの併用が標準的治療に変わり、日本ではカルバペネム系抗生剤が初期治療として用いられるようになってきているが、これらの抗生剤の使用頻度の増加によって、新たな耐性菌の出現が危惧されるため、適切な使用が求められる。
第2に、細菌性髄膜炎の初期治療における副腎皮質ホルモン剤の併用があげられる。以前より、小児のインフルエンザ菌性髄膜炎に対する有用性は言われていたが、2002年に報告された論文では、成人の場合でも肺炎球菌性髄膜炎に対するデキサメサゾンの抗菌薬投与前(または同時)投与の有効性が示され、日本でも使用される頻度が徐々に増えてきている。副腎皮質ホルモン併用
療法の有効性は、抗生剤治療開始後では認められないため、細菌性髄膜炎に対する初期治療の重要性はますます高まっている。

広南病院神経内科 佐藤 滋

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