ANCA関連腎炎について

 腎臓病のなかで、最も重篤で怖い病気の一つが、急速進行性糸球体腎炎です。以前は、亜急性糸球体腎炎とよばれていましたが、血尿、蛋白尿を伴って週~月の単位で急速に進行し、腎不全に至る病気です。腎不全になるだけでなく、他臓器の血管炎の合併や、ステロイドや免疫抑制剤の治療に伴う感染症などの合併により死亡率が非常に高い病気です。

今回はこの病気の中で最も多く、最近増えているANCA関連腎炎についてお話したいと思います。この病気の特徴は、血液検査の結果でほぼ診断が確定してしまうということです。腎生検を施行すれば、半月体形成性糸球体腎炎の形をとり、免疫グロブリンの沈着がほとんど見られず、血管炎がその本態と考えられております。

ANCA(抗好中球細胞質抗体)には、P-ANCA(ほとんどがMPO-ANCA)とC-ANCA(ほとんどがPR3-ANCA)がありますが、C-ANCAは、Wegener 肉芽腫という鞍鼻で有名な特殊な疾患に特徴的といわれています。

P-ANCAの方が陽性の頻度が高く、臨床的には重要です。ANCA関連腎炎の特徴として肺病変を合併しやすく、最も有名なのが肺出血を伴う肺腎症候群ですが、そのほかに間質性肺臓炎の合併が多く見られます。また、ステロイド療法などによる日和見感染として、カリニ肺炎の合併が知られております。

私の経験では、もともと肺線維症などの慢性的な肺病変を持った方に、尿の異常が出現し発症してくることが多いと思われます。また、関節リウマチの方は結構MPO-ANCAが陽性なことが多く、一般的にはその値が低め(二桁)で、臨床的には尿異常を伴わないこともあります。薬剤性のANCA関連腎炎がしられており、経口の抗甲状腺剤で起こることがあるとされ、当院でも経験があります。

診断に関して重要なのは、腎機能の悪化傾向のある方、肺病変のもともとある方に尿異常を認めたとき、関節リウマチの傾向のある方、抗甲状腺剤を服用している方など、また高齢者に多いことから高齢者に尿異常を認めたときには、この病気を念頭において、血液検査をすることと考えております。早期診断により、腎死を含めた死亡率が低下します。

この病気は急速に悪くなる反面、腎不全が改善する可能性があり、早期診断が重要です。

治療については、ステロイドを中心とした強力なカクテル療法が行われ、もちろん必要であれば透析なども必要となります。よく透析になるとやめられないといわれますが、急性腎不全以外では、この病気とSLEは透析からの離脱がありうる病気です。

しかし、強力に治療することによる感染症などの合併症が命取りになることも多く、いわゆるさじ加減が最も難しい病気です。ANCAは、診断的価値のほか、病勢の指標になることが多いとされ、それを参考に治療するということになります。知療のガイドラインなども出されており、ステロイドパルス療法の施行が薦められておりますが、個人的な意見としては、常用量でも反応することが多く安易に行うべきではないと考えております。

いずれにしても専門的な治療が必要であり、疑い例や、ANCAの高値の方をみられたときには至急、専門医に御紹介くださいますよう御願い申し上げます。

仙台市立病院 内科医長・人工透析室長 秋保 直樹

 

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